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1、ひんやり。



真冬の、人を凍らせ萎縮させるような、そんな底冷えのする風ではない。かといって、ここちよい春のそよ風でもない。夏の、だらけて、ふやけきった生ぬるい、むっとするような何かやりきれない風でもない。暑くも寒くもなく、かといって、なにかもの足りない、やるせなく、さみしげな秋の風でもない。いまだ冷たい3月の風である。

「いまだ」というのは、これから暖かくなるという意味である。また、「寒い」というのは、まわりの空気が肌寒いのであって風そのものは、むしろ「冷たい」のである。

カラダはいまだ身を引き締めて身構えていても、風そのものは、むしろ冷たくて気持ちがよいのである。清く爽快というか、身が引き締まってここちよい緊張感があるのである。こうしたことが、いまだ冷たい3月の風なのである。

気持ちを萎縮させるような冷たさではなく、むしろ反対に、なにかに向かって集中させるような冷たさで、気持ちというのが何かの目標を得て、中から外へ向かうような、また、それをうながすようなそんな風である。なぜか気持ちのよい気持ちを引き締めるうような、そんなひんやりしていて、すがすがしい風なのである。


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