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仰ぎ見るような遠くの景色を見ていると、霧などでかすんで見える場合がある。しかしその内と外との境界としての輪郭線はよく見える。ただし、輪郭の中の表面はのっぺりしていて、よく見えない。 色と明るさの濃淡が消えていて、コントラストも非常に弱く、表面の模様や輪郭も消えている。全体的に薄暗いというか、空の背景の白色に染まって隠れている。 まるで夢の中を見ているような、それと意識されることのない世界である。おぼろげにかすんでいて、ぼんやりした世界である。まるで、かつてこの地を生きてきた祖先の記憶を見ている思いがしてくるのである。 祖先の記憶は、見ようとしなければ見えない。しかしまた、いくら見ようとしても、自分のなかに、それに共鳴するものがなければ、見えてこないのである。それが、心のなかで響いてこなければならないのである。 自分のなかに元になるものが、共有されるものが、自分自身のシステムのどこかになければ、見えることがないのである。自分の中で映ることも、移ることも、写ることもないのである。うつる元になるものが自分の中にないと、うつることはないのである。それに気づくことも、知ることも、見ることもないのである。 |