( 市)ルネサンスへ<2015-1009 光の中、
4:エデンの園。
夜の霧(キリ)のなかであれば、電燈に照らし出された人影が、まるで、闇の中から浮かんでくる。濃い灰色の背景の中から、人間が薄い影となって現れてくる。 朝の霧のなかでは、それはむしろシルエットであり、明るく照らし出された幻(マボロシ)のようにも見える。その表情には陰影の濃淡がなく、地面に落とす影もない。霧が影をさえぎっている。 人間と物との間で霧が光を乱反射して、光はすべての角度から人間を映しだす。だから、地面に落とす影もなく、風景の陰影に方向性がなく、むしろ風景そのものが光源となっている、または、光源の中に風景があるような印象を受ける。 それはまるで、西洋のエデンの園、東洋の桃源郷のように思えてくる。陰(カゲ)がなく、人間の内面のかげりとか、わだかまりがなく、だれに対しても開いていて、まねき、ほほえみ、誘い、いざなっている。自分と他人をへだてるものは何もない。親しく、優しく、おだやかに入って来て、そしてまじわっている。 そして、いつでも開いていて、心を突き刺したり、こばんだり、へだてたりするものが、何もないのである。それは春の早朝の乱反射をくりかえす明るい霧の中の風景である。なにもかもが何のかげりもなく、あらわに、ありのままで外に開き、そして映しだされる。そして、それをさえぎったり隔てたするものが何もない世界である。 |