「職場」〜2-2 美。
事務という彼女のポジションからは、いつも彼女の後ろ姿だけが見える。それも事務所内の端(ハジ)の方である。そうした彼女の顔は、ほんの一瞬の、何かのひょうしに振り向いたときにしか見えない。しかも、ほとんど振り向くことがない。たいてい顔が見えず、背中だけが見えるている。だから、とても薄い影ように見えてしまうのである。 存在というのが目立たず、気づかず、いつもスミのほうで背中を向けて座ったままなのである。目立たず、影が薄く、どこか、なぜか、今にも消えてしまいそうな 、そんな、誰かがしっかりと支えてやらないと、ホント、そのままで、彼女自身というのが見えないままで、そのまま僕たちの手の届かない所へ消えて行ってしまいそうな、そんな気がしてくるのである。実に、可愛(カワイ)く見えるとはこのことなのである。いまにも壊れてしまいそうな、そんな、ため息(いき)のでそうな、はかない美しさなのである。 戻る。 続く。 |