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面影(オモカゲ)、~3 象徴。

彼女がいる勤務時間は午前中のみで、職場の男世界の話題に入ってくることはほとんどなく、いつも表面をかすめて過ぎ去ってゆく。あるいは、たまに入って来てもすぐにスベって転んで行く。まるで、不定期で気まぐれな彗星のように。話題に入って来ても、話がかみ合うというのがほとんどない。かすめるだけで過ぎて行く、まるで、夢かマボロシのような存在である。

もともと、興味とか感覚そのものが男と違うのである。だから中に溶け込むということがなく、たいてい途中で折れて墜落してしまう。もともと住んでいる世界というのが違うのかも知れない。しかしまた、だからこそ僕にとっては、あこがれや夢であり続けるのである。

真昼の様々な場面で、いたるところ、様々な情景のなかで彼女の面影を僕は見てしまう。それは僕自身よくわかっている。僕の意識は彼女自身を追いかけているのではないのである。彼女であって、彼女でないもの、彼女自身ではなくて、彼女の面影を追いかけているのである。

彼女、K夫人のいる情景の中で僕は別の世界を見ている。彼女が歩き、生き、話し、営む情景の中で、彼女が象徴する別の世界、ぼくにとっては異質で未知の世界を垣間(カイマ)見ている。そうして、自分にとって失われたものを見つけたと信じようとしている。あこがれと祈り、そして自分自身のタマシイ(魂)の救いの場面である。だから昼間、あちこちのいたるところで、彼女を象徴するイメージとして、現実の世界を見てしまうのである。

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