< 「情緒」
~2、「空気」の支配。
人間は呼吸をしていて、空気なしでは生きられず、
空気の中でいきている。
光も、ニオイも、肌に触れる感触も、
それは空気を透して、空気のなかを、
空気がはこんでくるのである。
空気の重さや暗さ、あるいは反対に軽さや明るさ。
それに、優しげで穏(おだ)やかな感じ。
あるいは、いかめしい、とげとげしい空気の感じ。
空気には、そうした、心理的で生理的、
情緒的な雰囲気がただよっている。
胸の苦しさやつらさ、それに、
ワクワクするようなときめきもある。
鼓動する心臓の音色や、
体内を流れる血液のリズムや、抑揚もある。
あるいは、自分だけでなく、まわりの他人との関係でも、
感性や情感といったものが、入り交じり錯綜した
アンサンブルの音色(ねいろ)となって伝わって来る。
それが、感覚の感じ方、雰囲気や情緒、
空気の色とでもいったものである。
人間と、「物」とのあいだに空気があって、
空気がそれを人間に伝えているのである。
自分の外の、現実世界での物言わぬプレッシャーや、
衝撃といったものも、単に、
見える物理的な衝撃としてだけでなく、
自分の身体(からだ)の中の、
生きた生理的な衝撃としても感じられるのである。
生理的で情緒的な息苦しさや圧迫感、胸の苦しさや、
心臓を圧迫する痛さとしても感じられて来るのである。
それは、場の空気を押し殺した呼吸の苦しさとしても、
視界がまぶしくなって見えなくなる目眩(めまい)や、
心臓を圧迫する動悸(どうき)の息切れとしても表れる。
これらは自分自身の体内の、神経と生理作用の混乱と
圧迫であって、心理的なプレッシャ‐としても感じられる。
そうしたことが「空気の重さや暗さ」として言い表され、
そのように感じられても来るのである。
戻る。 続く。
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