< 「未知の記憶」

〜6、網膜。


たとえば、目の中で見ている「網膜の残像現象」がそうである。あるいはまた、現実にはない紫(むらさき)という色が、網膜センサーの青と赤の合成の結果の「色」として見えてくる、というのもそうである。つまり、こうしたことは現実に無いものを目の中だけで実際に見ている。自分自身の感覚の生理の世界を、外の現実から切断された自分自身の目の中で見ているのである。

しかし、そうしたこともよく考えてみると、そうした生理作用自体が、その見え方やパターンや形式といったものが、自分たちの祖先から引き継がれてきた、「種」としての感覚器官の特質なのであって、数万年に渡って繰り返し反復継続されてきた経験の、自らの生理や機能の特質として保存されてきたものなのである。

それは自らの肉体の一部分として受け継がれてきたものなのであって、私たちは、そうした祖先の記憶を、自分自身の目の中の生理作用を通して見ているのである。種としての自分たちの記憶を、自分自身の閉じた目の中で見ているのである。

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