< 続:「春カスミの世界」


〜3、とまどい。


また、生まれたばかりの植物は、水分を多く含んでいて、
半ば光を透かしていている。少し半透明である。
少し離れて見ると、白いカスミの中で、それが背景の空の色に同化して、
輪郭や境界線といったものが、半分消えている。そして、
遠くの山々や野原の輪郭が薄くなって、途切れ途切れに消えて、
輪郭の中の模様や色だけが目だって見える。そしてまたそれが、
丸みを帯びたように見えてくるのである。

白い背景のなかで輪郭があいまいなまま、ぼやけて薄くなっている。
そうした世界のなかから、色の鮮やかさだけが浮かび上がって、
せまってくるのである。それは、まるでヌード(ハダカ)である。
目に見える外面を透かして、通り越して、中身の内面がそのまま
外に現れている。そんな感じなのである。むじゃきで、けなげで、怖(こわ)さを知らない、今にも壊れてしまいそうな、そんな色である。

境界の外面が消えて、内面がそのまま外に出ている。
無邪気で、開けっ広げで、大らかに、ふっくらしていて、
軽くふわふわと浮かんでいる感じである。
目に見える外見というのを無視して、
内面の心の中というのが、そのまま、むき出しのまま現れ出た感じなのである。

もしかすると、それは、生まれたばかりの生命は、
外面というのを持たないのかも知れない。
自らを守る防御壁とか警戒心というのが弱いのかも知れない。
だから、いつもオドオドしていて、とまどい、ためらい、動揺していて、
恐れ慄き、あるいはワクワクしたり、ときめいている。

戻る。              続く。