< 指向性


〜11、「未知」


「バランス」は、生存競争というシステムの型式・仕様にかかわるもの
であるが、実は、このシステムを運営している、人間自身の、
感じ方や情緒、考え方にも深く関与している。単に弱肉強食の
行為のパターンのみならず、それの考え方や感じ方にも、
「バランス」といったものが、強く作用しているのである。

例えば心理的には、男性的と女性的、情熱的と沈思的、
理性的と感情的、行動的と情緒的、といったふうに。
人間の精神が、元々そのように統合され、そしてそれを求めている
のである。そうやって、精神がバランス(調和)されるのである。
だから、そのうちのどれかが欠けていると、求めざるを得ないのである。
あるいはまた、そのうちのどれかだけが突出して来ると、対立し、
拒絶せざるを得ないのである。

だからまた、そうしたことが政治や文化、対外関係にも、
関係の仕方として色濃く反映されている。
古代スパルタとアテネ、共産主義と自由主義、
キリスト教とイスラム教、または儒教といったふうに。

あるいは大陸と島国、草原(農業)と砂漠(遊牧)、海岸(商工業)
といったふうに。あるいはまた、先進国と後進国といったふうに。
様々な可能性と現実が、それぞれが交流し合って、
バランスされて行くのである。

それぞれが何かを求め、自分に欠けているもの、抜けているもの、
失われたもの、自分でもわからない自分の中にある、未知のものを、
さぐり当てようとしているのである。自分で自分をたしかめようと
しているのである。自分が、だれなのかを知ろうとしているのである。

それぞれが、どこかでパートナーを求め、さがし、いざない、
導きあっているのである。それぞれが未知の者として互いを理解
し合い、自分自身を知ろうとしているのである。だからまた、
それが「バランス」なのであって、それぞれにとっての「指向性」である
と言わざるを得ないのである。


戻る。               続く。