< 春
〜3、「情景」
麗(うるわ)しき春の日の陽気に導かれて、精神は肉体を離れて外の世界へさ迷い出ている。まるで空気のなかに溶け込むように。ふわふわヒラヒラと移ろいながら漂い続けている。 それが春の日の情景というもので、いつの間にか気づくこともなく精神は開いていて、外へ出ているのである。人間の情緒というのが、それを包む外の空気の中に溶け込んでいって、それといっしょになって、ただよい、うつろいでいる。そうやって一つの情景を映し出している。それは誘いであり、求めであり、そしてまた、そうするしかない「必然」といったものである。まるで始めからそのように仕組まれ、セットされ、プログラムされていたかのような手際良さである。 イヤ、むしろ反対で、このような自然環境の中でこそ、このような特徴的で際立つ独特の情緒といったものが生み出されて来たのであって、そして、それがまた、日本列島という自然の特徴でもあったのである。 |