「夢の中」
〜3、境い目。
たとえば、夜中の放射冷却によって大気が冷やされ、 中の水分がしぼり出されて、キリとなって地表面を覆い尽くす。 しかし、明かりがないと何も見えないので、夜明け近くなって 始めてそれが、暗い灰色のキリとして見えてくる。 夜明けと共に次第に明るさを増して来て、灰色から シロ色へとキリの色が変わり、やがて気温の上昇とともに、 キリは消えて晴れる。 昼と夜の境い目。現実と非現実の間。これはいったい どちらの世界なのだろう。また、それが確かめられず、 確かめようのない、うすぼんやりした月明りの世界。 明暗の幅といったものが極端に狭く、薄暗い。影も乏しく、 世界のすべてがのっぺりして、平坦に見えて、色もない。 そうした、ぼんやりした月明りの世界。まるで世界が反転して、 自分の内面、自分の影の世界を見ているような、そんな 気持ちになって来る。 そして、やがてキリが立ち込めてきて何も見えなくなる。 濃い灰色のキリが世界を覆い、何も見えなくなって、 自分の足元も消えてゆく。ここはいったいどこで、 自分はいったい誰なのだろう?そうしたことが確かめられず、 見つからずに消えている。自分が見つからない。 世界と、そして社会と自分とのキズナが切断された ように思えてくるのである。自分が異界に迷い込んだ、 この社会の外の人間のように思えてくるのである。 やがて日は昇り、濃い灰色は薄い灰色へ、そして シロいキリへと変わってゆく。しかし太陽はまだ見えない。 濃いシロ色のキリに閉ざされたままなのだ。世界は少し まぶしいくらいに明るくなるが、閉じた白い霧(キリ)のなかでは ほんの十数メートル先が何も見えないままである。 |