「春カスミ」


〜2、同化。


遠くの景色がシロ色まじりにボヤケてかすんで、
春の鮮やかな四季の色が、うす白い背景のなかで、
ぼんやりと現れては消える。心の中の何かの忘れもの、
失われた記憶のカケラのように。ぼんやりと執拗に、
そしていつまでも、ずっとそうであり続けるのである。

うすシロい空気の色の、その空気中をただよう水滴によって、
光は大気中で乱反射をくりかえし、散らばって、広がり、
かきまわされて、光の持つ本来の方向性といったものを失う。
つまり、すべての角度から均一に、光がものを照らすのである。
人や物(もの)、見える景色の何もかもが白い光の中に
飲み込まれて、自分たちが光の中にいるように錯覚してしまう。

太陽の光が春カスミのなかで、乱反射をくり返し、
様々な角度から物体を照らし出している。これはある意味で、
「カスミ」という反射する光源の中に人間が置かれている。
人間が、光源としての光そのもの世界を生きているのである。
それは言わば天上の世界、神々の世界なのである。
方向を失った光の中で人間もまた光と同化している。


戻る。             続く。