「春カスミ」
〜5、ウツロイ。
日本列島が位置する温暖な気候。温帯域。四季が巡り、極端に暑くも(熱帯)も、寒く(寒帯)もなく、温暖でおだやかで、そのなかで多種多様な動植物が育まれてきた。そして水が豊かなことも、とても重要な要因である。さらにまた複雑な地形や時間的な変化の移ろいもまた、その自然的、および心情的な変化の場面というのが、どこにでも常に存在する、そうした世界である。私たちは、そうしたウツロイの世界を生きている。 「ウツロイ」とは、映る、写る、移る、そして、ウツロイゆく時間と空間の世界。空ろ(カラッポ)で、虚ろ(ボンヤリ)な世界である。人間はその中をただ表面上ただよっているに過ぎないのである。だれもその中には立ち入らないし、その必要も関心もないのである。それで十分だし、また、その中を覗(のぞ)いてはならないのである。 それはオキテ(掟)であり、不文律、暗黙の了解なのである。それは問うても、覗(のぞ)いても、見てもならない、自分自身の真実のすがたであり、それを見ると自分が壊れてしまうのである。だからこそ、けっして見ても、知ってもならない絶対の暗黙のオキテなのである。 そしてこの「ウツロイ」を掟(オキテ)という不文律で表現し、現実化する根拠となったのが、日本列島が持つ独自の風土だったのである。風土が、その現実の実際のすがたが、四季のありさまや地形や気候といったものが、たがいに作用し合い、入り乱れて、混合されてその必然の結果として生み出されたのが、このオキテなのである。 |