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7、空想。



たとえば、音はどうだろう?

スピーカーから聞こえてくる音はうつろである。それは、音だけの世界である。現実に生きて暮らしている私とは、異質な世界である。現実から切り離された音の世界、音だけの世界である。それは、私のカラダで聞いているのではない。耳から伝わってくる音を、頭の中だけで聞いているのである。これは感覚というよりも、意識とか思考、あるいは夢に近いものである。

現実の裏付けが何もないからである。現実にないものを聞いているのである。だから、仮空の世界であり、現実から切り離された別世界、空想の世界である。自分だけのうつろで孤独な、からっぽの世界なのである。

現実の音というのが、音だけとして聞こえてくることは、絶対にない。それは常に何かの原因ときっかけを伴って聞こえてくるし、そしてまた、音以外の他の感覚といっしょになって、聞こえてくる。音とは、つまり、生きているのであって、それを聞く人間の生き方、感じ方、そしてまた、その周囲との関係のなかで聞こえてくるのであって、それらと切り離せないのである。これが現実の音なのである。

戻る。           続く。

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