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11、ためらい。



精神の内奥の闇の底から、得体の知れない生き物が目だけをギョロつかせながら、こちらの様子をうかがっている。戸惑い、ためらい、そして恐怖におびえながら。それはまさしく僕そのものではないか。

あるいは意識する以前の、閉じた心の孤独な感情の音色(ねいろ)として聞こえてくる、そうした精神のリズム。心臓の鼓動の音、カラダ中を駆け巡る血の流れ。そうしたことのすべてが、途中でいきなり切断されて、それとは別の調べが遠くから聞こえて来て、そして迫ってくるのである。

だから、それが何なのかと聞かれても、説明できないのである。自分でもわからないのである。コトバとかイメージで捉(とら)えにくいものなのである。それ以前のものなのである。それは、目的とか理由を持たない衝動といったもので、なにかのカタチになる前のものなのである。それは、精神の地肌の裂け目から押し出されて浮かんでくる、内的な必然性といったものなのである。


戻る。               続く。

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