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3、マヌケ。



どういうことかというと、自分の肌に触れる感覚といったものが、例えば、暑くも冷たくもなく、湿気でムシムシすることも、乾燥でカサカサすることもない。風が吹いていても、熱風でも冷風でも寒風でもない。穏(おだ)やかというのでもない、「穏やか過ぎる」ということなのである。暖かくもなく、冷たくもなく、そんなことはどうでもよい、ただ風が吹いているというだけの、穏やか「過ぎる」風なのである。

感覚が、それに何かの刺激を感じたり、それが意識されたりするような、そんな空気ではないのである。そしてそれ以前に、刺激を受ける意識そのものが無いのである。それが呼応して呼び覚まされるということが無いのである。感覚のリズムの変化の無いところに、意識が目ざめるということが無いのである。自分で自分に気づくということが無いのである。

だからいつの間にか本人も知らないうちに、気が抜けた、マヌケのお人好しのようになっている。刺激がない、変化がない、どうでもよく、なんとでもなるという状態なのである。あるいは、わけもないのに一日中ひとりごとのように、何かどうにもならない愚痴をこぼしている。


戻る。               続く。

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