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2、肉体のすべて。



温度や湿度、それに明るさ。そしてニオイや風。空気というのが、目だけではなく、肉体のすべての感覚を通して感じられる。少し湿ったような、そしておだやかで優しく暖かい、そんな空気の肌ざわり。5月の緩んでたるみきったそれではなく、緩んで開き始めても、いまだ張り詰めた感じを残した、そんな、ふっくらした、優しげな空気の肌ざわりである。それが春の空気の色である。

あるいは、春の小鳥のさえずる音色も、そのように聞こえないだろうか。めざめと誕生が始まったばかりで、その小鳥のさえずる音色に驚きや喜び、とまどいや楽しさ、そうした始まったばかりの生き物たちの生の鼓動を感じないだろうか。そうしたことのすべて、音も、ニオイも、色も、空気も、それらすべてが、それぞれの季節に独特なものがある。

風にしたってそうである。いまだ冷たいが寒いというほどでもない。日蔭はまだうすら寒いが、日向(ひなた)へ出ると少し熱く感じられるくらいである。空気もまだほんの少し肌さむい。だがこれで、ちょうどよいのである。いまだ熱くなる前の、むしろ優しいくらいの暖かさ、それでいて豊かな日差しと、そして空気中をただよう豊富な水分、それに春のおだやかな風。あぶるような炎天下の夏の風とも、身を切るような冬の寒風とも違う。それは、おだやかで優しい春の風である。


戻る。             続く。

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