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春の情景を特徴づける景色のすべてに、なにもかもが非常に薄いシロ色が混じる。シロ色とは、水蒸気のことである。 それは景色というよりも、むしろ、情景といったものである。外の世界の、見るもの、触れるもの、聞くもの、すべてに何かしら人間の情緒に訴えるものがただよっている。それが、空気の白(しろ)さなのである。景色全体にシロ色が混じっていて、それが春特有の情景といったものを作り出している。 空気のシロさとは、空気中にただよう水分・水蒸気のことで、それが目に見える景色全体をカスミがかった、まるで世界全体を弱い霧(きり)が包んだように見せている。地表面も、天空も、地平線も、なにもかも世界全体を包んでいる。そしてこの春カスミの、空気の白さ、水分の潤いといったものが、また、人間の肌に触れる空気の感触といったものを、おだやかで優しいものにしている。 穏やかな陽ざしと、適度の気温と湿気が生命に優しいのである。そして、なごませ、ひらかせ、導いているのである。それは夏の日差しのような強烈で意志的な、有無を言わせぬような、そんな強さではない。それとは違ってもっとおだやかで優しい、そして自由で、のびのびした、だれに対しても、どこへでも入り込んでゆくような、そんな、すがすがしく優し気な陽ざしである。 |
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