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2、生理作用。



どこからか、身体の奥からつぶやきが聞こえて来て、あるいは、まだカタチにならない何かのシルエットが見えたりする。ものかげや暗がりの中から、誘い、求め、そして吸い込まれて行く。これは自分の肉体の感覚が作り出した気配であり、そしてまた、感覚の生理作用なのである。失われた記憶が、自分の中で、感覚の生理作用となって甦ってきているのである。

苦悩や苦痛、憧れや願い、驚きや叫びといったものが肉体の中から、衝動となって聞こえてくるのである。あるいは、何か訳のわからない人影やシルエットとなって見えてくるのである。

それは自分自身の観念の世界なのであって、現実には無いものなのである。しかしまた、現実にあった何かの印象といったものが、象徴となって、それが頭の中の観念の世界で呼び起こされ、そして連想されて見えてくる、あるいは、「見えた」と思えてくるのである。

たしかに鳥肌も立つし、耳鳴りもするし、足元が震え、血が凍りもする。しかしそれは、私自身の肉体の記憶がそうさせているのである。自分自身が招いた、自分自身の中の感覚の気配なのである。自分が自分の中でそう感じているだけで、現実には、そのようなものは何もないのである。


戻る。             続く。

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