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自分でもわからないのである。自分が何で、何をしようとしていて、いま何をしているのか。いまここにいる自分はいったい誰なのかと、自分がつかまえられず、自分のことなのに自分がわからなくなるのである。 それは、はてしない空のかなたとか、底無しの海の底を見ているようなものである。あるいは、自分の心の中の「井戸」の底をのぞいているようなものでもある。だからそれは、見てはならないものなのかも知れない。しかし、そうやってしか、確かめることの出来ないものなのかも知れないのである。そうする以外に、自分を確める方法がどこにもないように思えてくるのである。 そうやって、はてしなく際限のない、自分の中の空想の世界をさ迷いつづけるしかないのである。何一つ、現実の裏付けのない、現実との接点を欠いた、自分だけの孤独な世界をさ迷い続けるのである。しかしまた、この現実こそが最も怪(あや)しい、偽りと迷信で成り立っている空想の世界のように思えてくるのである。 だから現実を信じてはならない。現実との接点は不要であり、「接点」はなるべく無い方がよいのだ。このような一人ぼっちで孤独な世界、自分の内に向かって閉じた世界、これこそが自分自身の本当の真実の世界なのである。自分以外のだれにも惑わされず、歪められず、迷わされることのない、自分だけの世界なのである。そうやって自分で自分を見つめ、問いかけ、そして、握りしめようとしているのである。 |