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3、底なし。


現実にないもの、知らないもの、未知のものを、表現のしようがないのである。にもかかわらず、それが意識され、自覚されてくるのである。隠しようがないのである。しかしまた、自分が知らないものを、他人に伝えようがないのである。それは自分の経験にも、記憶にも、感覚にもないことなのである。

例えるならば、にごった水の中に何かが沈んでいて、浮き上がろうとしている。しかし、水の外からは、それが何なのか見えずに、それがうれしいことなのか、恐ろしいことなのか、そしてそれ以前に、それがはたして何なのか自分でもわからないのである。自分のことなのに。ただ、それが浮き上がって来ようとしている、ただ、それだけが自分を捉(とら)えて離さないのである。

だから、自分で考えて、自分で見つけるしかなく、そうした得体の知れないものを、自分で表現してゆくしかないのである。言いかえると、これがまさしく自分自身というものの、底なしに得体の知れない人間の正体なのである。



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