ルネサンスへ<2015-0102 神々の予感。(  市)



② クサビ。

しかしそれが何だったのか、
自分でも思いだせないのである。
というのは、それが、言葉とか思考以前の、
もうろうとした、霧の中の記憶だからである。
このような、意識の届かない世界での記憶というのは、
つまり、意識以前の、自己と他者とが区別される以前の、
ないしは、区別する必要のない世界にあっては、
記憶というのは、
あいまいでおぼろげな記憶でしかないのである。
意識が、いまだそれを記憶として意識することのない、
そこまで達することのない、
感覚とか感受性といった段階のままの記憶である。
意識が届くことのない、肉体のままの記憶の世界なのである。

だからめざめて、それを思い出そうとしても、
決して思いだせないのである。
にもかかわらず、意識のなかでは、
それがクサビのように打ち込まれていて、
その正体不明の何かが、
様々な言葉にならない、得体のしれない、
なにかの衝動として、せまってくるのである。

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