( 市)ルネサンスへ<2016-0603 春かすみ、
~4:始まり。
どこまでも、だれに対しても、優しく穏(おだ)やかで暖かい春の陽気。 それでいて、まだ冷たさの残るひんやりした、身を引き締めるような 空気の肌ざわり。それは何かを暗示し、予感させるものであり、 自分をなんらかの(それが何であるかはどうでもよい)、 そんな何らかの行動へと誘い、求め、導くものなのである。 早春の、恋をささやく小鳥の鳴き声がそうだし、野原を彩(いろど)る 草花の色がそうだし、山々を覆う新緑の淡くて半透明の色が、 そして、何もかもがそうなのである。 春先の景色といったものが、その非常に薄い水蒸気のカスミによって 覆(おお)いつくされ、その白いカスミのなかから、なにかが現れ、映し 出されている。生命がめざめ、再生し、生まれ出ようとしている。 穏やかな日差しと、豊かな水。舞台はととのい、方向は定まり、 そして物語はすでに始まっている。それは、もはや予感でも予徴でも なく、すでに始まているのである。 白いカスミのなかで、それが映し出されている。 カスミ(霞)が、自分と景色の間にあって、自分の精神と現実をへだてて、 区切っている。そして、このカスミを通して自分が意識され、自分に めざめ、そして、自分で自分を見ている。カスミのなかで現れては消えて ゆく遠くの山々の情景とは、そうした自分自身の心の中の風景なので ある。だから不可解で不思議でもあるし、なぜか、異和感というか、 非現実というか、別世界の異界のように思えて来るのである。 戻る。 続く。 |