(  市)ルネサンスへ<2016-0603 春かすみ、



~5:優しい。

モヤ(靄)よりも濃く、キリ(霧)よりも薄く、空気中をただよう水蒸気が、
地上の世界を覆っている。これが春カスミの世界である。それは、
非常に薄い雲の中である。天上の世界の雲が地上に降りて来た
のである。このうす雲の中で人々は世界を見ている。風はほとんどなく、
地上と空全体をカスミが覆い、遠くの景色が白いカスミのなかで、その
影だけがうすぼんやりと見え隠れしている。

昼過ぎなっても、なかなかカスミが晴れないのは、気温が夏のような
高温にならないのと、豊かな水分があって、それが大気中に供給され
続けるからである。それは夏のように、植物の成長を強力にうながす
ような、そんな暑さでもないが、同時にその暑さ、むし暑さで、若葉や
新緑をいぶり殺すような、そんな強すぎる暑さでもない。

それは、もっと穏(おだ)やかで暖かい、新しい生命を優しく包み、
開かせて、世界全体をすみずみまで、全体として暖め広げてゆくような、
そんな、穏やかで心地よい暖かさである。ふっくらしていて、優しげな、
そんな、触れる肌の感触にも、見た目にも優しい、そんな暖かさである。

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