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バイオリンはどうだろう。これは非常に繊細でデリケートで、そうした危うく壊れやすい音色である。きしむ音、こすれて、すり合わされ、揺れて、ゆっくり裂けてゆくような音である。緩んだり、締めたり、撫でたり、引っ掻いたりするような音である。 これは僕自身の、血管の流れの音である。あるいはキーキーと締め上げる。あるいは優しく緩めて延ばしてくる、内臓の筋肉の動きにも思えてくる。狭い所でひしめき合って、それらが互いにこすれて引きつられたり、あるいは傷ついたり裂けたりしながら、バランスさせてゆくのである。 だから危うくもあり、神経質でもあり、そしてまた、非常にデリケートなのである。そうやって私たち人間は、自分の肉体の営みでもって、自分や他人の感情の動きといったものを知るのである。自分の肉体が嫌が上にもそれを知らせてくるのである。 肉体の中の生理や筋肉の、そしてその神経の営みを通して、それを知るのである。他人から教えられるのでもなく、考えてそうなるのでもなく、人間という肉体が、そもそもの始めからそうなのである。 |
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